信頼の中に築く空間の価値|禹樂空間デザイン 代表 呂明志

デザインから統合まで──プロデューサー的視点で、クライアントと共に未来へ歩む

( 禹樂空間デザイン創設者-呂明志 / Photo Credit:呂明志 )

禹樂空間デザイン(以下、「禹樂」)のオフィスに足を踏み入れると、まず感じるのは山積みの図面でも、慌ただしい会話でもありません。ふわりと漂うハンドドリップコーヒーの香りです。創設者の呂明志(以下、「ジーさん」)は、訪れた人が席につく前に必ず自らドリップコーヒーを淹れます。そのゆったりとした水の流れと同じように、彼の佇まいは穏やかで落ち着きがあり、そこには「安心してほしい」という想いが込められています。

「安定感」こそが、彼がお客様やチームと向き合うときに大切にしている姿勢です。
「デザインとは、常に生活のまわりにあるもの。」信頼関係があってこそ、お客様は本当のニーズを語ってくれる。だからこそ、彼は世界を巡り、極上のライフスタイルを体験し、そのなかから答えを導き出すのです。

禹樂オフィス/Photo Credit:REAE Vision

「私たちは単に空間を体験するのではなく、ビジネスモデルまで体験し、コストや市場の可能性まで考えます。」

ワンストップの統合サービスを通じて、多角的な視点からの提案を実現してきました。禹樂の作品は常に“既成概念にとらわれない野性”を持ち、挑戦を重ねています。台中の草悟広場から ELIZE ショールームまで──環境・文化・空間・ブランドを包括的に捉え、禹樂独自のデザインアプローチを築き上げてきました。

草悟広場(左)、ELIZE展示空間
Photo Credit:禹樂空間デザイン、VOID Photography

そして、禹樂とサイエンス(Saiens)の協業は「デザイン以上の価値を提供する」ことを体現するものでした。台北ショールームの設計に取り組む際、ジーさんにとっては数少ない商業空間の案件。理解を深めるためにチームと共に工場を訪れ、研究室から生産ラインまで歩き、科学・職人技・美学が交差する姿を目にしました。それをどう空間に翻訳するか──その思考の積み重ねが、ショールームの細部に息づいています。そこには、サイエンスのものづくりの底力が感じられるのです。

しかし、ショールームは単なる素材の展示場ではありません。デザイナーには研究と工芸の美を伝え、オーナーには空間から安心と信頼を感じてもらう。その二つを両立させることこそが、この案件の大きな挑戦でした。

サイエンス台北ショールーム/Photo Credit:REAE Vision

ジーさんは言います。
「お客様と2時間ほど話せば、そのプロジェクトが成功するかどうか大体わかります。結局、正しい人と出会えるかどうかがすべてなんです。」
最大の挑戦はデザインそのものではなく、「正しいクライアント・正しいパートナー」を見つけること。サイエンスとの出会いはまさに縁であり、初めから相性が良かったからこそ、スムーズにプロジェクトが実現できたのです。

数々の大型案件を手掛けてきた今でも、ジーさんは「楽しい」と笑います。
創業から8年──禹樂が大切にしてきた原点は揺らぐことなく、「統合」というスタンスをさらに深化させようとしています。単なる要望への対応ではなく、長期的に安定と信頼を提供できる存在へ。そして、禹樂を次世代のステージに育て、若い世代が自分の価値を実現できる場にしていきたいと語ります。

Next
Next

デザインを本気で「遊ぶ」、それが生き方—— 創喜デザイン クリエイティブディレクター・龐甄嬉