デザインを本気で「遊ぶ」、それが生き方—— 創喜デザイン クリエイティブディレクター・龐甄嬉
グラウンドからデザインの現場へ。挑戦を受け止めるたびに、龐甄嬉は楽しさを磨き上げ、日常の哲学へと昇華させている。
(創喜デザイン代表・龐甄嬉/Photo Credit:甄嬉)
忙しく流れる日常の中で、本当に「自由に」暮らせている人はどれほどいるでしょうか。人生の浮き沈みに直面したとき、なおも落ち着いて過ごせる人は?
龐甄嬉(チュアン・シー)が放つ雰囲気はまさにその「自在」と「泰然」。彼女にとって、暮らしとは楽しむもの。「プレッシャーを抱えたままでは、何事もうまくいかない」と語ります。日々の挑戦に、彼女は“遊び心”を込め、内なる静けさと信念で、不確かな外界に向き合うのです。
「子どもの頃は陸上選手で、リレーではいつもアンカーでした。」その経験は単なる思い出ではなく、彼女のリズム感と自信の源。トレーニング中、走りながら自分と対話し、「あと少しだけ頑張ろう」「昨日より少し成長しよう」と積み重ねてきた。その集中力と爆発力は、今もデザインと暮らしの支えとなっています。
(創喜デザイン代表・龐甄嬉/Photo Credit:甄嬉)
SNSやAIコンテンツがあふれる時代に、多くの人が「流量」や「露出」に目を向ける中、甄嬉は創作の本質に立ち返ります。
「誰かがやったことは、もうやりたくない」という信念のもと、広告にも頼らず、シナリオ通りにも動かず、ただ真摯に自分のスタイルを積み重ねてきました。情熱はごまかせない。完璧を一度で狙うのではなく、一歩ずつ誠実に積み上げることで、目標に近づいていくのだと彼女は信じています。
その名前の通り、「甄嬉」がいる場所には自然と笑顔と幸せが広がる。まるで花が香り、蝶が舞うように。
「楽しく生きる」をモットーとする彼女のエネルギーは、Saiens の理念「Have FUN」と完璧に重なります。そんな彼女は、Saiens Salon に欠かせない存在。4月には台北ショールームで、自ら10人の友人を招き、デザイナー発案による初めてのディナーイベントを開催しました。
誕生のきっかけ
Saiens は、クォーツストーンを中心とした素材開発と空間デザインに携わる中で、どうしても余剰材が生まれるという課題に直面していました。
ある時、デザイナーから「小さな板材をカッティングボードにできないか」と相談を受けたことがきっかけで、家飾ブランドへの発想が芽生えます。
こうして 2021 年のクリスマス、by Saiens の最初の構想が生まれました。
偶然のようでありながら、それはまるで最後のピースがはまったかのように、Saiens の企業 DNA を完成させました。
― 外向けには、石材を活かした家具・インテリアという新たなラインナップを。
― 内向けには、余剰材の有効活用と倉庫管理の解決策を。
その結果、循環型デザインを掲げるインテリアブランド by Saiens が誕生しました。
(4月 Saiens Salon/甄嬉と友人たちがショールームに集う様子)
デザインについて語るとき、甄嬉はこう強調します。商業空間の目的は「目に留まること」。思わず写真を撮りたくなる“ハイライト”を作り出すことが大切。
一方で、住宅デザインはまったく異なり、「収納、機能性、帰ってきたときの心地よさ、そして動線」が重要だと語ります。色彩においては独自の直感があり、「クライアントと会った瞬間に、その人の“色”が浮かぶんです。その色を基調にすることで、家に帰ったときに自然と安心感が生まれる」と。これは長年の観察と内省から培った感覚なのです。
未知の領域のデザインに挑むとき、彼女は知ったかぶりはせず、誠実に質問します。事前に質問リストを用意し、忙しいクライアントに対する敬意を示すのです。
「私が提供したいのは“価値”であって、“価格”ではありません。」と甄嬉。真摯で謙虚な姿勢こそが、信頼関係を築き、プロジェクトを前に進める力になると信じています。
その「誠実さ」はチーム運営にも表れています。彼女にとって大切なのは、メンバーが単にタスクをこなすことではなく、成長できるかどうか。チームを率いることはデザインと同じで、それぞれの状態やリズムを理解し、方向性を示し、自由に動ける空間を作ることだと言います。そうしてこそ、より安定し、遠くまで進んでいけるのです。
(住宅プロジェクト/Photo Credit:創喜デザイン JCPC DESIGN)
創喜デザインは今年で7周年。未来の話になると、甄嬉は目を細めて「実はCDを出したいんです」と笑います。まるで「このあとランチに行こう」と言うかのような軽やかさで、その場を和ませました。
「目の前に訪れることを、受け止めて、丁寧にやり切れば、それは必ず自分の一部になる。」
彼女にとってデザインも暮らしも同じ。日々の積み重ねが、彼女自身を形作っていきます。その優しい哲学は、いつも変わらず——今に集中し、プロセスを信じ、喜びを生み出しながら、一歩一歩進んでいくことなのです。