デザインはスタイルではなく、日常に寄り添う層の積み重ね。

日々の暮らしから生まれるもの──Collab 17 Kuang × Wendy が、住まい手の「自分らしさ」を映し出し、関係のひとつひとつに寄り添いながら、デザインならではのリズムを紡ぎ出します。

一齊一七 Collab 17 主宰 Wendy(左)、Kuang(右)

Kuang と Wendy にとって、デザインとは決して一方的な創作ではなく、常に「関係性を築く」プロセスそのものです。施主との関係、空間との関係、そして共に歩む仲間との関係。
彼らはこう語ります。「本当に良いデザインとは、デザイナーの痕跡を残すことではなく、使う人が心地よく暮らせること。」その姿勢こそが、Saiens との協働において、自然でありながら深い共鳴を感じられる理由でした。

最初の出会いは新竹のアイスクリームショップ Cremia。時間も予算も厳しい案件でしたが、デザインの細部は妥協したくない。
「とても急な状況で、多くの人なら『できません』と言うかもしれない。でも Saiens は違いました。常に方法を探し、一緒に答えを見つけてくれる。」と Wendy は振り返ります。
Kuang もまたこう語ります。「ただ素材を納めるだけではなく、デザイナーと共に課題を解いてくれる。その信頼感は、まるで同じチームの仲間が増えたようでした。」

 

Collab 17 にとって、デザインはスタイルから始まるのではなく、“核となる価値”から始まります。

Wendy が Airbnb 本社とのプロジェクトを振り返ると、最初に話し合ったのはレイアウトや素材ではなく、Belonging(帰属感) でした。その考え方は住まい手との対話にも受け継がれ、日々の習慣や暮らしのリズムから、本当にふさわしい空間を共に探ります。

「私たちは常にスケールを行き来しながらデザインを考えます。建築は都市の文脈から始まり、インテリアは建築の構造と論理に応え、家具は人の生活に寄り添う。外から内へ、大きな視点から小さな視点へ──すべてのレイヤーが呼応し合い、最後には人と暮らしに還っていく。」(Collab 17)

Collab 17 スタジオ内 / Photo Credit:Collab 17

彼らにとって、デザインは「速さ」を競うものではなく、理解と信頼を重ねていく旅のようなもの。プロセスを大切にし、一つひとつのディテールの本質を見極め、空間を人の生活に戻していく。
その理念は「Collab 17」という名前にも込められています。ここはラボラトリーであり、誰もが自由に探求できる場所。そして「協働」と「共に歩む姿勢」を象徴しているのです。

Collab 17 スタジオ内 / Photo Credit:Collab 17

Kuang と Wendy のデザインに対する理解は、日常と旅の積み重ねから生まれています。旅の途中で、彼らはピーター・ツムトアが設計した「コロンバ美術館」に深い感銘を受けました。廃墟の上に建てられたその美術館は、新しい建築と古い教会跡を融合させ、石材を透かして差し込む光が静謐で神聖な空間をつくり出していました。
また、デイヴィッド・チッパーフィールドの作品からは、新旧の構造がほとんど無言のまま対話する姿を目にし、デザインとは形だけでなく、時間や感覚と結びつくものだということを実感しました。

その感覚は、彼らが民生社区に構えたアトリエにも受け継がれています。古い住宅を改装したその空間では、過度に壊すことなく建物の状態を受け止め、素材の選択と解釈を通して、建築の過去と現在に応答しています。

一齊一七 Collab 17 工作室內部 / Photo Credit: 一齊一七 Collab 17

スタジオの片隅には、旅の記憶を刻んだ地図が丁寧に額装され、過去の足跡をそっと物語ります。特殊な塗装の壁には、娘が描いた小さなウサギが跳ねていて、ここが仕事場であると同時に生活の場であることをやさしく伝えてくれます。

スタジオに残された娘の落書き(左)と旅の地図(右) / Photo Credit:Collab 17

午後の光が差し込むと、空間の隅々に物語が宿ります。不完全でありながらも真実を語るディテール。棚に並ぶ 3D プリントの小物は、フック、建築模型、小さな船──いずれも試行錯誤の痕跡であり、日常から生まれるインスピレーションを大切にする彼らの姿勢を映しています。

スタジオに並ぶ 3D プリントの小物たち / Photo Credit:Collab 17

「良い空間は水のようなもの。自然と人を導き、意識せずとも動ける。」と Wendy。
Collab 17 が信じるのは、デザインはスタイルを定義することではなく、その人らしいリズムを見つけること。
空間は決して独立して存在せず、人や環境、都市と共に呼吸し、変化し続ける。そして日常そのものが、静かに風景となっていくのです。

 
 
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